便中カルプロテクチンとは(過敏性腸症候群の鑑別・IBDモニタリング)
30 Mar. 2023【便中カルプロテクチンとは】(検便検査・保険適応276点です)
S100蛋白に属する36kDのカルシウム-亜鉛結合蛋白で好中球(白血球の主要細胞のひとつ)の細胞質主要成分で抗菌作用を持つものです。腸に炎症が起こるとその好中球が集まってきて、腸管から便の中に移行するため便中カルプロテクチン値が上昇します。
【便中カルプロテクチンを使う場面】
おもに2つあります。
① 過敏性腸症候群との鑑別
② 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の腸の炎症状況の評価
【①過敏性腸症候群との鑑別】
血便のない、慢性腹痛症や下痢症で日常診療で遭遇する最も高い疾患は過敏性腸症候群です。特に若い方ではいわゆるストレス性によるものがほとんどではありますが中には炎症性腸疾患を発症している方が存在します(炎症性腸疾患の発症が多いのも同世代です)
多くの病院では血液検査・エコー検査・もしくは大腸内視鏡検査を行うことで過敏性腸症候群を診断します。しかし、
・血液検査やエコー検査では炎症性腸疾患の検出感度は低い(採血・エコー検査が正常でも腸に炎症あるケースは多い)
・とはいえ大腸カメラは身体的・時間的負担も大きく全員行うのは現実的ではない
といった問題があります。そこで便中カルプロテクチン検査を行い、大腸カメラを行う必要があるかを判断します。
便中カルプロテクチンの過敏性腸症候群との鑑別感度は100%・特異度74%とされます(松岡ら 医学と薬学 2017)
まずこの検査を行い、陽性の方は大腸内視鏡検査で精密検査を行うというステップで診断をすすめていく際に用います。
(過敏性腸症候群との鑑別の利点・弱点)
(利点)全員に大腸カメラが必要なくなる ・採血やエコー検査より的確な診断に結びつくことが多くなる
(弱点)結果まで時間がかかる(便提出から結果まで当院ではおよそ2週間かかります)
(当院院長監修リーフレット 過敏性腸症候群との鑑別)
【②炎症性腸疾患のモニタリング】
潰瘍性大腸炎とクローン病患者様は定期的に内視鏡検査を行う必要があります。それは症状・血液検査などの異常なくとも腸の炎症が残っている人が珍しくないからです。しかし大腸内視鏡検査は非常に負担の多い検査となります。またクローン病の方では小腸の炎症の評価も必要となりより負担が大きくなります。
外来通院の方で治療変更すべきかどうか・内視鏡をすべきかどうか迷うのは「なんとなく最近良くない気がする」「血便はないけど下痢っぽいことが多い」などの完全に調子が良いといえない症状を訴えられた方で内視鏡に同意をいただけなかった場合です。その際に現状維持で経過をみてよいか・治療を変更すべきかどうかは非常に判断が難しく中には重症再燃への始まりの場合もあります。そこで内視鏡までは行いたくないといった要望で検査をやはりしておくべきと医師が判断した方には便中カルプロテクチン検査を実施し、腸の炎症の有無をまず評価します。そこで高値であった際はさらなる精密検査を行う・正常値であれば経過観察といった判断を行います。
(利点)内視鏡をせずとも評価ができる
(弱点)検査の数値はすべて正確ではない(検査エラーが0ではない)・癌の発見ができない
潰瘍性大腸炎の病勢把握では感度97%・特異度64%(松岡ら 医学と薬学 2017)、クローン病では感度94%・特異度88%(Iwamotoら J GastroenterolHepatol. 2018)と報告されています。
【最後に:追加の注意点】
・便中カルプロテクチンはあくまで診断の補助といった位置づけです。完全な診断には内視鏡などが必要であることに変わりはありません。
・血便がある方は原則適応ありません(血便は最初から内視鏡適応です。重症化などで入院時に測定する施設もあるようですがカルプロテクチン値の評価より症状での評価が優先されます。)
・過敏性腸症候群との鑑別では3か月以上症状の続く方が適応です(急性胃腸炎でも上昇します)
・小児では正常値より高くなることが健常者でもありえます
・基準値は使用用途(過敏性腸症候群との鑑別・潰瘍性大腸炎・クローン病)や検査キット(FEIA法・ELISA法・金コロイド凝集法など)によって異なります。正常値についてはそれぞれ主治医にご確認ください
(当院院長監修 クローン病病態把握補助保険適応取得についてのリーフレット)
(2021年11月 JDDW 2021(日本消化器関連学会週間 神戸)にて発表)
(当院院長の学術論文 便中カルプロテクチンと小腸バルーン内視鏡の関連の検討)
保険適応決定の根拠のひとつとなった論文です
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgh.14310
山梨県甲府市 いわもと内科おなかクリニック