潰瘍性大腸炎とクローン病の2疾患を一般的に指します。
広い意味では腸管ベーチェット・好酸球性消化管疾患を含める場合やさらに感染性腸炎・薬剤性腸炎・放射線性腸炎・虚血性腸炎などのいわゆる「腸炎」を指す場合もあります。
☑下痢
☑腹痛
☑血便
☑発熱
☑体重減少
☑貧血
☑肛門痛(痔瘻)
上記のような症状が長期に及ぶ方は、消化器専門の医療機関で一度検査が必要かもしれません。対照的な疾患として過敏性腸症候群があります
腸疾患の確定には大腸カメラが必要です。クローン病や腸管ベーチェット・好酸球性消化管疾患などは小腸にも炎症・潰瘍をつくることが多く、大腸カメラだけでは診断に至らないもしくは異常を認めないケースもあります。CT検査・MRI検査・小腸内視鏡検査などを行うことも必要です。また精密検査を迷う方には検便(便潜血検査・便中カルプロテクチン)によるスクリーニングを行なう場合もあります。
大腸カメラ
下剤で腸管洗浄を行い肛門から内視鏡を挿入します。腸管内を直接観察することで炎症の有無の評価や細胞採取(組織生検検査)で診断を行います。苦痛を伴う検査ですが麻酔で緩和することが可能です。
腹部CT検査
腹部全体の大枠を調べることが可能です。炎症性腸疾患を念頭に置く場合は腸の腫れの有無・瘻孔(穴があいている)の有無・閉塞/狭窄(腸が詰まっている・狭くなっている)の有無などの評価に用います。一方で腸内の微細な炎症などの発見は困難です。
MRI検査(MRenterography)
主に小腸の評価に用います。消化管洗浄液を一定量内服したあとにMRIを撮影します。CTと比較し腸の炎症や潰瘍・狭窄の評価が詳細に行えます。また内視鏡に比べて負担が少ない検査です。小腸の専門的検査となるため限られた施設でしか行っていない検査となります
小腸内視鏡
カプセル内視鏡とバルーン内視鏡があります。 小腸カプセル検査はカプセル型の内視鏡を内服しモニターを1日装着し腸管内の画像撮影を行います。病変の観察は可能ですが診断に必要な細胞採取(生検組織検査)は行えません。小腸病変の有無の検索や治療中の患者さんのモニタリングなどに用います。 バルーン内視鏡はカメラに風船(バルーン)が1つもしくは2つ装着された内視鏡です。挿入をバルーンが補助することで小腸まで到達が可能となっています。レントゲン透視装置や特殊機器が必要であり、検査も長時間に及ぶ負担の大きい検査で、多くは入院検査が必要となります。また小腸の狭窄を認める場合には狭い部分を広げる(拡張術)や出血時の止血処置といった手術をすることもあります。主に診断時の小腸の細胞採取(組織検査)や定期モニタリング・拡張術や止血術を必要とする際に行います。
便中カルプロテクチン
慢性下痢症や慢性腹痛症など炎症性腸疾患の可能性はあるものの内視鏡検査を受けたくない、といった方に対して内視鏡の必要性を判断する目的でおこないます。便中カルプロテクチン値が高い場合は炎症性腸疾患の可能性があり、大腸カメラが推奨されます。一方で便中カルプロテクチン値が低い場合は過敏性腸症候群などの可能性が高く経過観察でよい場合もあります。また潰瘍性大腸炎やクローン病と診断された方に対して定期のモニタリングや再燃を疑った際の確認目的で使用することもあります。
潰瘍性大腸炎とは・当院で行える治療/当院への通院者数(炎症性腸疾患学会認定施設です)
潰瘍性大腸炎の症状はどんなものですか?
潰瘍性大腸炎は、下痢、血便、腹痛、体重減少、発熱などの症状が主に現れます。腹部に膨満感や不快感を感じることもあります。急に症状が悪化すると、緊急の医療対応が必要になることもあります。症状の程度には個人差があり、寛解期(症状が治まる時期)と活動期(症状が悪化する時期)を繰り返すことが特徴です。
潰瘍性大腸炎は遺伝する可能性がありますか?
潰瘍性大腸炎には遺伝的な要素があります。家族に同じ病気の人がいる場合、発症のリスクが高くなります。ただし、遺伝だけではなく、環境要因や免疫系の働きが関与するため、必ずしも発症すると決まっているわけではありません。
食事はどのように気をつけるべきですか?
食事は個別に調整が必要ですが、一般的には刺激物や脂肪分が多い食事を控えることが推奨されます。また、食物繊維が豊富な食品(生野菜や全粒穀物など)を避け、消化が良い食事を心掛けることが大切です。寛解期の方には大きな食事制限は行いません。飲酒についても同様です。個々の症状に合わせて、医師や栄養士と相談しながら食事内容を調整すると良いでしょう。
治療方法にはどんな選択肢がありますか?
治療には、薬物療法、食事療法、手術療法の3つの主な方法があります。薬物療法では、抗炎症薬(5-ASA)、免疫抑制剤(アザチオプリン)、生物学的製剤(抗TNFα薬など)が使われます。症状がひどい場合や薬が効かない場合には、大腸全摘を含む手術が考慮されることもあります。
薬の副作用にはどのようなものがありますか?
5ASA製剤は下痢や発熱、関節痛といったいわゆるアレルギー症状、ステロイドや生物学的製剤などの免疫抑制治療では感染症のリスクが高まることがあります。ほかにステロイドの長期内服で骨粗鬆症が生じる可能性があります。また、生物学的製剤は注射部位の痛みや発疹を引き起こすことがあります。副作用を避けるため、定期的な検査やモニタリングが必要です。
潰瘍性大腸炎は完治することがありますか?
現時点で潰瘍性大腸炎は完治することは難しいですが、適切な治療により症状をコントロールし、長期間の寛解を維持することが可能です。治療が早期に始まれば、症状の悪化を防ぎやすくなります。生活習慣の改善と医師の指導を受けることで、寛解を長く保つことができます。
ストレスが症状を悪化させることはありますか?
ストレスは潰瘍性大腸炎の症状を悪化させる可能性があります。ストレスが体の免疫反応に影響を与え、炎症を引き起こすことがあるため、リラックスやストレス管理が重要です。十分な休息、睡眠時間の確保などのリラクゼーション法を取り入れることが症状の管理に役立ちます。
旅行や外出時、どのような準備をしておくと良いですか?
旅行や外出時には、必ず必要な薬を携帯し、急な症状悪化に備えた対策を講じることが大切です。また、旅行先のトイレの場所を確認したり、食事に注意したりすることも重要です。外出先で症状が悪化した場合に備え、緊急時の連絡先や治療施設を確認しておくこと、指定難病の受給者証をお持ちの方は携帯する方が安心です。
運動に関して注意点はありますか?
運動は体調に合わせて適度に行うことが重要です。軽いウォーキングやヨガなどの有酸素運動は、症状を改善する助けになることがあります。しかし、過度な運動や激しいスポーツは症状を悪化させることがあるため、無理せず、体調が良いときに行うようにしましょう。
症状がひどくなった場合、緊急時にどうすればよいですか?
症状が急激に悪化した場合(激しい腹痛、血便、高熱など)は、すぐに医師または最寄りの病院を受診する必要があります。症状が悪化する前に、定期的に医師と連絡を取り、適切な治療を受けることが重要です。緊急時の対応方法について事前に主治医に確認しておくと良いでしょう。
他の病気との関連性はありますか?
潰瘍性大腸炎は、他の自己免疫疾患や関節炎、皮膚疾患、目の病気などと関連することがあります。特に、長期的に潰瘍性大腸炎を患っていると、大腸がんのリスクが増加するため、定期的な検査を受けることが推奨されます。また、肝臓や膵臓にも影響を与えることがあるため、全身的な健康管理が重要です。
妊娠中に潰瘍性大腸炎の治療はどうなりますか?
妊娠中でも潰瘍性大腸炎の治療は続ける必要がありますが、薬の選択には注意が必要です。妊娠中に安全な薬を使用することが大切で、特に免疫抑制薬や生物学的製剤の選択には慎重を期す必要があります。妊娠前に医師と治療計画を立て、妊娠中も定期的に診察を受けるようにしましょう。
手術が必要な場合、どんな方法がありますか?
手術が必要な場合、大腸の一部または全摘を行うことがあります。手術方法としては、内視鏡手術や腹腔鏡手術があり、身体への負担を軽減する方法もあります。手術後には、人工肛門(ストーマ)を使うことが一般的ですが、腸の再建手術も可能な場合があります。手術の必要性については医師とよく相談することが大切です。
日常生活で気をつけるべきことはありますか?
日常生活では、規則正しい生活を心がけ、適度な運動とバランスの取れた食事を心掛けましょう。睡眠も重要な要素であり、十分な休息を取ることが症状の管理に役立ちます。また、定期的な診察を受け、薬の服用をしっかり守ることが大切です。
潰瘍性大腸炎はどのくらいの頻度で再発するのでしょうか?
再発の頻度は個人差がありますが、治療が適切に行われていれば、再発を防ぐことができます。しかし、ストレスや感染症、薬の服用の中断などが引き金となって再発することがあります。定期的な通院と早期の対応が重要です。
薬を飲み忘れた場合、どうすればよいですか?
薬を飲み忘れた場合、できるだけ早く服用しますが、次の服用時間が近い場合は1回分を飛ばして次回から通常通り服用します。飲み忘れを繰り返さないために、服薬のリマインダーを設定するなど、予防策を講じると良いです。
カフェインやアルコールは症状に影響を与えますか?
カフェインやアルコールは一部の患者、特に重症度の高い方に対して症状を悪化させる可能性があります。カフェインは腸の動きを活発にし、アルコールは腸の炎症を引き起こすことがあります。これらの摂取は控えるか、症状に応じて量を調整することが推奨されます。一方で寛解期の方では必ずしも完全な制限はいたしません。適度な量を意識して摂取することが重要です。
潰瘍性大腸炎に関連する合併症はありますか?
潰瘍性大腸炎には、大腸がんのリスクが高まるほか、関節炎や皮膚病、目の炎症(ぶどう膜炎)などの合併症が見られることがあります。定期的な検査やモニタリングを受け、早期に異常を発見することが大切です。
症状が改善しない場合、どんな追加検査が必要ですか?
症状が改善しない場合、血液検査や内視鏡検査、CTスキャンやMRIなどを使用して、病状の評価を行います。病状に応じて治療方針を再検討し、他の治療方法や薬の変更を検討することがあります。入院が必要な場合は総合病院と連携をいたします。
潰瘍性大腸炎の生活習慣改善についてアドバイスをください。
生活習慣の改善としては、規則正しい生活、バランスの取れた食事、ストレス管理、禁煙が重要です。定期的な運動を取り入れ、十分な睡眠を確保することも症状の管理に役立ちます。また、飲酒やカフェインの摂取を控えめにすることも良い影響を与えることがあります。
学歴
山梨大学医学部 卒業
山梨大学大学院博士課程修了
(研究課題:クローン病における便中カルプロテクチンと小腸バルーン内視鏡の関連)
主な職歴
山梨大学医学部附属病院 第1内科
山梨県立中央病院 消化器内科
東京医科歯科大学 消化器内科/炎症性腸疾患センター
所属学会・資格
日本内科学会 認定医
日本消化器病学会 専門医
日本内視鏡学会 専門医
日本消化管学会(胃腸科)専門医
日本炎症性腸疾患学会
難病指定医
小児慢性特定疾病指定医